がんに対する高濃度ビタミンC点滴療法
ビタミンCはがんに効く
がんに対する高濃度ビタミンC点滴療法は、ノーベル賞を2度受賞したライナス・ポーリング博士らが、自らのデータから、「ビタミンCでがんが治る」ことを発表した1970年代から行われています。しかし、すぐさま否定的な論文が続けて発表されたため、その後はあまり注目されることはありませんでした。ところが、2005年にアメリカ国立衛生研究所(National Institute of Hearth: NIH)から、ビタミンCががん細胞に効くメカニズムに関する論文1)が発表されて以来、再び注目され、米国の大学病院などで臨床試験が行われるようになりました。日本でもクリニック院長の澤登雅一が非常勤講師を勤める東海大学血液腫瘍内科で、基礎的・臨床的研究が行われており、ビタミンCの抗腫瘍効果が確認されております。
がん細胞だけを選択的に攻撃するメカニズム
NIHの論文では、抗酸化物質であるビタミンCは、むしろ強い酸化作用を誘導しがん細胞を殺すこと、さらに、正常細胞には何のダメージも与えないことが示されました。
ビタミンCが高濃度になると、強い酸化作用をもつヒドロキシラジカルを誘します。がん細胞は、カタラーゼ(ヒドロキシルラジカルを中和することができる酵素)活性が低いという特徴があり、ヒドロキシルラジカルに攻撃されやすい環境にあります。一方、正常細胞はカタラーゼ活性が高く、ヒドロキシルラジカルによる悪影響を受けにくいのです。
また、がん細胞はブドウ糖を取り込みやすいという性質があり、ブドウ糖と構造が似ているビタミンCはがん細胞に取り込まれやすいという特徴があります。そのため、がん細胞には正常細胞より多くのヒドロキシラジカルが発生しやすくなります。これが、ビタミンC療法が、がん細胞に特異的に働くメカニズムであり、実際には、ビタミンCの血液中濃度が400mg/dl(22^23mM)前後に達すると強い抗腫瘍効果が発揮されるので、高濃度ビタミンC点滴療法ではこの濃度を目標とします。
ビタミンCが役割を果たすためには、血液中の濃度が重要です。目標とする400mg/dlは経口投与では到達することのできない濃度であり、ビタミンC療法が点滴で行われるのはそのためで、実際には、点滴終了直後に採血をして、血液中濃度を評価します。ビタミンCの血中濃度には、患者さんの全身状態やがんの拡がり、栄養状態、喫煙の有無などさまざまな要素が影響します。
血管新生を抑制する新たなメカニズムを発見
クリニック院長の澤登雅一は、非常勤講師として所属する東海大学医学部血液・腫瘍内科で、同大、川田浩志准教授らと共に高濃度ビタミンCが血管新生を抑制するという新しいメカニズムを発見しました。
本研究成果は、米国の科学誌「PLOS ONE(プロス・ワン)」に、現地時間2013年4月23日に掲載されています(英文)。
今回の研究は、ヒトの白血病細胞について行われ、高濃度ビタミンCが血管新生を抑える働きをもち、そのことによって白血病細胞の増殖を抑制することが、マウスを使った動物実験で新たに解明されました。これは、血管新生に関わる分子(VEGF)を抑制する「HIF1α」という分子の発現を抑制することによって、結果的に血管新生を阻害し、白血病の進行を抑制するというメカニズムです。
本研究の成果は、高濃度ビタミンCの新たな抗腫瘍メカニズムの発見として今後注目されます。
高濃度ビタミンC点滴療法で期待される効果
がん細胞を死滅させる効果
この療法単独でどの程度の効果があるかについてはまだ十分なデータはありません。効果例は報告されていますが、今後、臨床試験で検証する必要があります。現段階では、すべてのがんに同等の効果があるとはいえませんが、標準的治療と併用することで治療効果を高める可能性や、標準的治療で効果が得られない症例には単独でも行う価値はあると思います。
がん治療としては副作用が少ない
心不全、腎不全、著明な胸腹水など、水分負荷が全身状態の悪化につながる場合、高濃度ビタミンC点滴療法は行えません。
ビタミンCそのものに大きな副作用はないため、しっかりとしたプログラムにのっとって行えば、重篤な副作用はほとんどありません。ビタミンC療法でみられる副作用は、抗がん剤・放射線の副作用に比べれば非常に軽度です。
抗がん剤や放射線療法は、腫瘍細胞のみならず、正常な細胞にまでダメージを与えてしまうというマイナス面があります。高濃度ビタミンC点滴療法は、この点においては、従来のがん治療とは異なり、ほとんど正常細胞にダメージを与えることはありません。
抗がん剤や放射線療法と併用できる。また、それらの副作用を軽減する
放射線療法を行った場合、程度の差こそあれ、皮膚傷害はほぼ必発です。高濃度ビタミンC点滴療法を併用することによりその程度は軽減され、回復も早まります。女性の場合、抗がん剤を使用することで、病気に加えコスメティックな部分が精神的な負担になることが多くみられますが、そのような負担を少しでも軽減できるのであれば、併用する価値は十分にあるのではないでしょうか。ビタミンCは、ある種の抗がん剤の副作用を軽減する、抗腫瘍効果を高めるというデータもあります。
また、栄養状態や全身状態の悪化を防ぐという点でも大きな意味があります。栄養状態や全身状態の悪化は、抗がん剤の量を制限せざるを得ない原因になり、時には、治療をスケジュールどおりに遂行できない原因にもなります。つまり、がん治療の足を引っ張る原因となるのです。逆に言えば、栄養状態や全身状態を保つことは、より強いがん治療(標準的治療)を受けられる条件でもあります。高濃度ビタミンC点滴療法はその部分においては十分な貢献ができる治療なのです。
さらに、高濃度ビタミンC点滴療法には疼痛緩和の効果も臨床的に確認されています。間接的にステロイドの産生を促すことにより、抗炎症作用を示す、血液中のカルシウムレベルを下げ、骨へのカルシウムの取り込みを促進する、などいくつかのメカニズムが考えられています。
抗ストレス物質としての効果
病気が与える直接的なストレスと、がんになってしまったという精神的なストレス、そして抗がん剤など治療が与えるストレス。がんの患者は心身ともにストレスを大量に抱えることになります。ストレスは、体内のビタミンCを消費してしまうので、その結果、免疫力が落ち、さらにストレスにも弱い状態に陥ります。がん患者さんは、精神的なストレスを緩和し、免疫力を高めるためにも、健康な人より大量のビタミンCを必要としているのです。
免疫力が高まる
ビタミンCは免疫をつかさどるビタミンでもあるため、上述のように不足した状態では、免疫力は低下し感染症を合併しやすい、傷が治りにくい、などの問題が生じます。ビタミンCを補うことは、このような合併症の頻度を減らすことにもつながります。
治療法
点滴の頻度は、治療をはじめる時点では週に2〜3回が標準です。抗がん剤や放射線治療と併用される方に対しても、あるいはこの治療法を単独でされる方に対しても、同じ回数で点滴治療を行います。多くは1回で50g以上のビタミンCを点滴で投与することになります。ビタミンCの投与量によって、点滴時間は変わります。たいていは、1〜2時間です。
がんが完全に消失したという段階になったら、半年ほどは週1回の治療を続けます。その後は、半年あるいは3ヶ月ほど、2週間に1回、その次の段階では月に1回、といったように、だんだん頻度を減らしていきます。治療の期間については、個々の症例によって変わります。
高濃度ビタミンC点滴療法による副作用
ビタミンCによる治療ですので、基本的にはほとんど副作用はありませんが、点滴刺入部あるいは血管の疼痛、眠気、気分不快、頭痛、低血糖などが見られることがあります。
G6PD酵素活性が低下していると、溶血を起こす危険がありますが、事前の検査で活性があることを確認してから行います。打撲や打ち身後、数日以内に高濃度ビタミンC点滴を行うと、打撲部位に痛みを伴う皮下出血が見られることがあります。